忘れるということ

 忘れるということは、人間に備わった、いわば生きる知恵でもあります。忘れられない人がいたそうですが、決して天才でも幸せでもなかったそうです。だんだん時間とともに、記憶が薄れてこそ、つらいことも乗り越えられるのでしょう。
 ただ、一定以上に忘れると、障害ということになります。
 よく、何を食べたかは忘れても良いが、食べたことを忘れるようではおかしいと言います。
 記憶にもいろいろは種類があります。「エピソード記憶」というのは、初めてジェットコースターに乗ったことのような、「思い出」といった記憶です。
 みかん、パンの意味が判るのは、「意味記憶」があるからです。これはいつ覚えたか判りません。
 自転車に一度乗れる様になると、何年も乗らなくても、すぐにまた乗れるようになりますが、これは「手続き記憶」が残っているためです。
 記憶障害の人は、予定が覚えられない、買い物を忘れるなどなど、これからのことを忘れるので生活がしづらいのですが、受傷以前の記憶がなくなる、あるいは希薄になる人も結構いるようです。友達との思い出を忘れると、だんだん友人が遠ざかると言います。こどもから、昔の思い出をいわれて、覚えてないなあと言ったら、こどもが泣き出したという人もいます。後ろ向きの記憶と前向きの記憶両方なくなる人もいれば、片方だけの人もいます。両方が障害された人は、いつでも現在だけに生きているので、経験を踏まえた将来の計画が立てにくくなるようです。
 記憶障害に対処するには、頭の中で行う内的対応法と、頭の外で行う、外的補助手段を使う方法とがあります。好みもありますので、自分に合った対処法をうまく使えるようになることが、記憶障害に対処する早道だといわれています。