「怒りっぽくなった」

 脳損傷になると、たいていは以前より怒りっぽくなります。易怒性とか、イライラすると言います。やっぱりそうなんだという人も多いのではないでしょうか。前より温和になったという人もありますが、まれです。

 どのくらいの人が怒りっぽくなるのでしょうか。きちんとした統計は知りません。そのつもりで聞き取りをしないと判らないことが多いでしょう。
 わたしの経験では、怒りっぽくないという人の方が珍しいくらいです。
 優しそうな女性で、とても怒りっぽくはないだろうと思っていると、ご主人が来られて、最近怒りっぽくて困っていると言われたり、両親につい怒ってしまうと言われて初めて、あなたもですかということもあります。

 程度も色々です。何となくイライラするかなという人から、人ごみで怒鳴ってしまったり、喧嘩で仕事を失ったり、果ては警察のお世話になる人もいます。
 幸い、多くは家庭内で留まっているようです。しかし、できれば怒らないで欲しいと思う家族も多いことでしょう。

 なぜ怒りっぽくなるのでしょうか。
 脳損傷のせいで、歩きにくくなった、話がしにくくなったといった後遺症のために、イライラして、周囲に当たってしまうということはあり得ることだと理解できます。
 こうした心因の他に、やはり脳の一部に傷を負ったために怒りやすくなるということもあるようです。

 特徴は、だんだん腹が立って、「好い加減にしてよ、わたし、腹が立って来た。」というように、徐々に腹が立つというのではなく、急に怒ってしまうのです。切れるという表現が当たっているようです。周囲の人は、その怒り方の性急なことに驚いてしまいます。
 そして、怒鳴られた方は、しばらく気分が悪く、根に持ってしまうことが多いのですが、本人は意外にけろっとして、2、3日経つと何を怒っているのと、不思議な顔をするのです。

 これは、深刻な後遺症だと思います。家族と亀裂ができる人も多いですし、気がつくと友人が減ってしまったという人もあります。

 治療法はあるのでしょうか。高次脳機能障害の症状のどれもそうでしょうが、まず本人が、脳損傷後、自分は少しイライラして、ちょっとしたことにも怒りっぽくなっている、できれば切れないようにしようという自覚が大切です。怒りそうになると、一人になるようにしている、イライラするような状況(疲れ、騒音、不眠)を避けるようにしているという人があります。

 薬物も色々研究されています。しかし、怒らない薬がただちにある訳ではありません。気分が落ち着く、不安が少なくなる、憂鬱がましになるというような薬を試します。しかし薬によっては、かえって眠くなってイライラしたり、記憶や注意力が落ちてしまったり、体に副作用が出る場合もあります。あくまで対症療法ですので、医師や家族とよく相談しながら、治療するのが良いと思います。一人で悩まないで、家族友人にも理解してもらいましょう。